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広島地方裁判所 昭和35年(行モ)3号 決定

申立人 同和産業株式会社

補助参加人 野上辰之助

相手方 広島県知事

主文

本件申立を却下する。

申立費用は申立人の負担とする。

理由

第一、申立人の求める裁判

「相手方が昭和三四年六月二三日指令河第九〇五号を以てなした件外中国電力株式会社(以下中電と称する)に対する太田川水系太田川の水利使用許可処分並びに同年一二月二六日右許可に基く工事実施認可処分の執行は広島地方裁判所昭和三四年(行)第九号水利使用許可処分取消請求事件の本案判決が確定するまでその執行を停上する」

旨の決定。

第二、申立の理由

一、申立人は広島通産局登録番号第二〇一号を以て広島県安佐郡佐東町及び同郡安佐町二五、一三九アールについて金、銀、銅、亜鉛、硫化鉄鉱、けい石、長石の採掘権、同局登録番号二八五三号を以て同郡佐東町及び同郡安佐町二五、七〇〇アールにつき右同種鉱石の試掘権を有し、更に別紙目録記載のとおり出願をしてその先願権を有し、現在鉱石の採掘に従事している。

二、相手方は中電に対し右申立趣旨記載のとおりの水利使用許可処分(内容は別紙のとおり)及びこれに基く工事実施認可処分をなし、中電は右処分によつて現在水力発電用の水路開さく工事を進めている。

三、このように中電が右処分に基いて水路開さく工事を遂行するときは申立人の右各鉱区は水路によつて縦貫されることになり、この水路(内径五、〇四米)にあたる部分は勿論その周囲各五〇米の部分も鉱業法の定めるところによつて鉱石の採掘が不可能となり、更には水路にあたる部分については坑道を迂廻させ或は採掘計画を放棄するのほかなくなる部分を生ずる等全鉱区についてその価値が失われ、申立人の鉱業権、試掘権、先願権は不法に侵害される結果となる。また、申立人の施業案は鉱業法第六四条の規定の適用を受けることとなつて制限され、同法五三条により減少の処分を受け、土地収用法による収用をされ、鉱業法第三五条により試掘権につき不許可の決定を受ける等の不利益を招来することともなる。

四、相手方の処分は申立人の採掘権、試掘権、先願権の存在することを考慮せず、また申立人において広島通商産業局長に対し、慎重な配慮を施すよう申出ていたのにこれを無視してなされたもので申立人の右財産権を不法に侵奪するものであるから違法であつて取消されるべきものである。

五、よつて申立人は広島地方裁判所に対し昭和三四年(行)第九号水利使用許可処分取消請求の訴を提起し同事件はなお審理中であるが、本案判決確定を待つときは水路開さく工事は完遂され、申立人は回復し難い損失を蒙ることとなるので右本案判決の確定するまで本件各処分の執行を停止されるよう求める。

第三、当裁判所の判断

疎明によれば、申立人主張のような河川法第一七条ないし第一九条に基づく許可並びに認可処分のなされたことは明らかである。

ところで、相手方のなした右の許可並びに認可処分の効力、性質について検討するに、先ず水利使用許可処分の許否は当該流水の利用を特許し工作物等の設置を許可することなどにより広く一般公共の利益に与える影響の有無及び治水上の問題等専ら河川管理の見地から考慮して決定されるに過ぎないものであるし、これに基く工事実施認可は右流水の利用のため右許可処分によつて概括的に許可された工作物等の設置につきその工事の方法、規模等を検討したうえ治水管理の見地から考慮してその支障なしと判断した場合認可するものである。従つて水利使用許可処分に基いて流水を使用し、工事実施認可処分の内容に従つて工事を施行することにより新たに設置すべき水路等の工作物の計画予定地域に存する第三者の所有権その他の権利を害することは許されないのであつて、許可認可の処分によつてかかる第三者の権利を排除してまで工事施行者に工作物を設置する権利が付与されたとみるのは正当でない。工作物を設置しようとする目的地上にかかる第三者の権利があるときは工事施行者としては自らこれらの権利を取得するとか収用その他の方法により権利の調整をはかり、その侵害を生じないような措置を講じたうえはじめて施工できるものと考えるのが相当である。

してみると申立人がその執行停止を求める本件許可及び認可の各処分自体はその内容性質において何ら申立人の鉱業法上の権利(仮にありとしても)を侵害するものではないと言うのほかない。従つて申立人に申立人主張のような鉱業法上の権利の有無、同鉱区と水路との競合の状態、損害発生の有無及び額等についてまで進んで判断するまでもなく本件申立は理由がなく却下すべきこととなる。

よつて申立費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 溝口節夫 小木曽茂 川上正俊)

(別紙目録省略)

指令河第九〇五号

広島市小町三十三番地

中国電力株式会社

昭和三十三年六月十一日付中国電発総管第二三号で願出の太田川水系太田川(太田川発電所)の水利使用を許可する。ただし、別紙命令書の事項をじゆんしゆしなければならない。

昭和三十四年六月二十三日

広島県知事 大原博夫

命令書

広島市小町三十三番地

中国電力株式会社

右の者に対し太田川水系太田川、吉山川(太田川発電所)の水の使用並びに水路開さく及びその付属物の施設を許可するについて、この命令書を交付する。

第一条 水の使用の目的は電力の一般供給のため発電の用に供するものとする。

第二条 取水量は太田川一秒時間五、〇〇立方米(一、七九六、八五立方尺)以内、吉山川(補給用)一、五立方米(五三、九一立方尺)以内、使用水量は一秒時間五〇、〇立方米(一、七九六、八五立方尺)以内とし、内常時使用水量は一秒時間二二、七立方米(八一五、七七立方尺)とする。

第三条 取水口及び放水口の位置は次の通りである。

一、取水口 太田川 広島県安佐郡安佐町大字久地字谷河内六、九六八番地

(現間野平、新間野平発電所放水路より直接取水)

吉山川 広島県安佐郡安佐町大字久地字北原五、四三三番地

二、放水口 太田川 広島県安佐郡佐東町八木字細野土手外五八七番地の二

第四条 許可の年限は昭和六十三年(西暦一、九八八年)三月三十一日までとする。

第五条 許可を受けた者は、この命令書交付の日の翌日より数えて六カ月以内に次の各号によつて水路実測図(平面図は縮尺六、〇〇〇分の一以上縦断面図は縮尺縦二〇〇分の一以上、横六、〇〇〇分の一以上横断面図は縮尺二〇〇分の一以上とする。)構造図、工事説明書及び工事費予算書を調製して、広島県知事に対し工事実施の認可を申請し認可を受けなければならない。これを変更しようとする時も又同様である。

一、水路の流量は太田川本水路一秒時間五〇、〇立方米(一、七九六、八五立方尺)、吉山川支水路一秒時間一、五立方米(五三、九一立方尺)を標準とすること。

二、取水口には制水門を設けて量水設備をなすこと。

三、取水口、放水口に接続する河川の沿岸に対しては本事業によつて生ずる損害を防止するため必要に応じ護岸等の工事を施すこと。

四、水路開さくのため水路経過地域において、山地が崩壊しないよう相当の設備をなすこと。

五、工事に因つて生ずる土砂の捨場を定めて別に指示する方法により処理すること。

六、放水口より下流部玖村測水所附近までの間に流量変動に対し警報設備をすること。

第六条 許可又は認可を与えた事項であつても広島県知事が公益上その他必要があると認めた時はこれの変更を命ずることがある。

第七条 許可を受けた者が第五条の認可を得た時は、その翌日より数えて六カ月以内に工事に着手し、着手の日より三十カ月以内に竣功すること。天災その他不可抗力による事故のため期間内に工事に着手し又は竣功することができないときは、許可を受けた者は期間の伸長を申請することができる。

2 前項の申請は天災事変の止んだ日の翌日から数えて一カ月以内にしなければならない。

3 自己の過失によらざる正当の事由により期間内に工事に着手し又は竣功しがたいときは、期間経過前に延期を申請することができる。延期の期間は通して一年をこえることはできない。

広島県知事の命により設計を変更した時は更に期間の指定を申請することができる。

4 前項の申請は、広島県知事の命を受けた日の翌日から起算し、一月以内に行わねばならない。

5 工事に着手した時は遅滞なく広島県知事に届け出ること。

6 第五条及び第十九条第一号の期間については本条第二項又は第三項の規定を準用する。

第八条 本事業のため、河川、道路橋梁、用悪水路その他公共の既設工作物の変更を必要とするときは許可を受けた者は関係者と協議しそのてん末を添え広島県知事の承認を受けること。

第九条 本事業のため、かんがいその他水利漁業に支障をきたすか又はそのおそれのあるときは許可を受けた者は工事着手前に関係者と協議し水路の改築その他適当な方法を講じなければならない。

2 前項により工事をしようとするときは関係者と協議して、そのてん末を報告し広島県知事の承認を受けること。

第十条 広島県知事がこの工事のため風致をき損し又はそのおそれがあると認めたときは許可を受けたものと協議の上植樹その他適当な施設をさせることがある。

第十一条 広島県知事がこの事業に因り治水上障害をきたし又はそのおそれがあると認めるときは許可を受けたものに対してその障害を除去させ又はこれを予防するために必要な施設をさせることがある。

第十二条 広島県知事が工事施行のため必要な仮締切、仮道その他の備設又はその作業方法に危害を生ずるおそれがあると認めたときは許可を受けたものと協議の上その危害を予防するため必要な施設又は措置を行わせることがある。

第十三条 公益のため必要な工事により本事業に障害を来たし又は変更をさせることがあつても許可を受けた者はこれを拒ばむことは出来ない。

第十四条 工事が竣功したときは、遅滞なく広島県知事に認可を申請すること。

第十五条 通水を開始したときは遅滞なく広島県知事に届け出ること。

第十六条 広島県知事が公益上必要があると認めるときは期限を指定して引水を停止するか、又は引水量を制限することがある。

なお、将来太田川下流において上水、工業用水等の需要が増加し広島県知事が必要と認めた場合発電所の日負荷の変動に伴う下流流量の増減を調整するよう適当な施設又は措置を行わせることがある。

第十七条 広島県知事は水路及び付属工作物並びに本事業にともなつて施設した護岸その他の工作物を監査し必要があると認めるときは許可を受けたものに命じて相当の工事又は設備をさせることがある。

第十八条 次の各号の一に該当する場合には広島県知事は許可の全部又は一部を取消し、若しくは工事の変更又は中止を命ずることがある。

一、公益上必要があると認めるとき

二、許可を受けたものが法律命令又はこの命令書あるいは本命令書に基いて行つた処分に違反したとき

三、河川の状況の変更その他許可の後に起つた事実によつて必要があると認めるとき

第十九条 次の各号の一に該当する場合においては許可はその効力を失う。

一、電気の供給施設概要変更の許可を得ないとき、若しくはその許可を取消されたとき

二、第五条の期間中に同条の認可を申請しないとき

三、第七条第一項の期間内に工事に着手又は竣功しないとき

四、電気事業の工事実施認可を受けないとき、又はその認可を取消されたとき

五、中途で工事を廃したとき

六、全部の営業を廃止したとき

七、会社が解散したとき

八、許可の期間が満了したとき

第二十条 許可の効力が消滅した場合には広島県知事は許可を受けた者に命じて既設工作物の全部又は一部を除却し、原形に復させることがある。

第二十一条 広島県知事が公益上その他必要があると認めたときは、本命令書の条項を変更し若しくは追加することがある。

第二十二条 許可を受けたものがこの命令書又は本命令書に基いて行つた処分による義務を履行しないとき、又は履行しても必要の期間内に終了する見込がないとき、若しくはその履行の方法がよくないときは広島知事は自らこれを執行し又は他人に代行させることがある。

第二十三条 この命令書又はこの命令書に基いて行つた処分による義務のために要する費用及び前条の費用はすべて許可を受けた者の負担とする。

ただし、法令に別段の定めがある場合はこの限りでない。

第二十四条 この許可によつて生ずる権利義務はこれを他人に移転し又は貸付けることは出来ない。ただし、次の各号の一に該当する場合にはこれを許可することがある。

一、工事竣功したとき

二、事業が相当に進行し、成功の見込みがあると認めたとき

三、会社が合併したとき

四、会社の組織を変更したとき

前項ただし書により権利義務の移転を許可する場合があつても命令書に規定する期間の伸長はしない。

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